I will support Ohashi For tomorrow.
 HOME / ごあいさつ / 自分史(1946〜2002) / 父との別れ / 憂楽帳 / 惰学記 / 父の思い出 / 後援会 / 大きなうた / 余談独談



五輪
 2016年のオリンピック開催地はリオデジャネイロに決まった。東京発のテレビは、東京開催を日本人すべてが願っているかのような報道振りで、ある番組のコメンテーターが「北京五輪からたった8年で同じ東アジアの東京が選ばれるのは難しい」という趣旨の発言をしかけたら、司会者が「そんなこと言わないでくださいよ」とさえぎったのにはあきれた。落選決定後も「残念だ」と言わないと番組を降ろされそうな雰囲気があって、みんなが遠慮して発言しているように見えた。東京一極集中にうんざりしている「地方の目」には「南米初」のリオが選ばれるのは当然に思え、あまりのギャップにテレビの怖さを感じた。
 ところで、オリンピックに「五輪」という名和訳をつけたのは、読売新聞の戦前からの運動部記者で、後にスポーツライターとして活躍した川本信正氏*1(1907−96)であった。1936年のベルリン大会時に同僚から「いい訳語はないか」と言われて「五輪」を考えついたという。当時、「五輪」は、「地、水、火、風、空」の五つの元素が世界を構成するとするインド哲学の言葉で、寺などの「五輪塔」か、宮本武蔵の兵法書「五輪書」が連想された。川本氏は近代オリンピックのシンボルマークが5大陸を意味する五つの輪であることから「五輪書」を連想し、「オリンピックと五輪、語感も似ているじゃないか」と推奨したらしい。この訳語は戦後になって各新聞社が使うようになり、日本では完全に定着した。
 実は私は、北京五輪まで中国でもオリンピックを「五輪」と訳していると思い込んでいたが、これは完全な勘違いで、「五輪=wulun」と言っても中国では通じない。中国語ではオリンピックを「奥林匹克=aolinpike」という似た音の漢字で当て、公式には「奥林匹克国際運動会」という名称で、一般には省略して「奥運会=aoyunhui」と呼んでいるようだ。
 「五輪匹克=wulunpike」とすれば音も似ているし名訳ではないかと日本人的には思ってしまうが、そもそも中国語では、「輪」はスポークのついた車輪のようなものを指す言葉で、「順番」とか「かわりばんこ」という意味はあるが、円とか環という意味はなく、丸い輪は「圏=quan」か「圓=yuan」と言うようだ。「圏」は「囗(くにがまえ)」が囲いの意味で、「巻=juan」は音を表し、併せて、巻き物やフィルムのように丸い芯に物を巻きつけたものということから、丸いという概念を示している。つまり、丸い囲み、即ち中に何もない円を「圏」という*2。一方の「圓」は日本の漢字では「円」の旧字だが、中国には円という漢字はなく、円という意味で今も圓を使う。従ってオリンピックのシンボルマークの5つの輪を中国語で表すなら「五圏=wuquan」または「五圓=wuyuan」であって、五輪にはならないようだ。同じ漢字を使っている国であっても、ある漢字や熟語の意味する概念が日本語と中国語では全く異なる場合がしばしばあることを頭に入れておく必要がある。

 *1 川本氏は「五輪」発明の前にも、35年に100m10秒3という当時の世界タイ記録を2度出した吉岡隆徳選手に「暁の超特急」の愛称を付けており、ネーミングの才があったので、同僚の整理部記者から「オリンピックは字数が多過ぎて見出しにならない。何か考えてくれ」と頼まれたようだ。
 *2 「圏」は後に丸くない単なる囲みにも使われるようになり、動詞としては人や動物を檻に入れることを「圏=juan」という。


5大陸(青がオセアニア、黄がアジア、黒がアフリカ、緑がヨーロッパ、
赤がアメリカ)を表すとされるオリンピックのシンボルマーク=ただし、
JOCは「何色がどの大陸をさすということはない」としている


五輪塔(写真は高野山西南院のもの)は5つの石を積み重ねた仏塔。
下から@「地輪」=直方体A「水輪」=球体B「火輪」=屋根型
C「風輪」=上が平らな半球D「空輪」=宝珠を意味する球体

<back>
 HOME / ごあいさつ / 自分史(1946〜2002) / 父との別れ / 憂楽帳 / 惰学記 / 父の思い出 / 後援会 / 大きなうた / 余談独談

 大橋建一へのご意見等は、こちらから。  E-Mail : info@ken-ohashi.jp