I will support Ohashi For tomorrow.
 HOME / ごあいさつ / 自分史(1946〜2002) / 父との別れ / 憂楽帳 / 惰学記 / 父の思い出 / 後援会 / 大きなうた / 余談独談



あいさつ
 「挨拶」という漢字がどうも好きになれない。「挨」も「拶」も「挨拶」以外の使用例がほとんどなく、書いていて違和感がある。そもそも中国では挨も拶も「他人を押しのけて争い、前に出ようとすること」とか「そばにくっついて身動きできなくさせる」といった「まとわりつく」ニュアンスで使われたらしい。それがどういうわけか日本語では、人のそばに寄って礼を尽くす意味になった。つまり「挨拶」は中国では通用しない言葉である。
 元々の意味はともかくとして、これまでは挨も拶も常用漢字外だったこともあり、私は「あいさつ」と書く時は必ず平仮名を使ってきた*1。ところが国の文化審議会漢字小委員会が2年がかりで検討し、まとめた「常用漢字表」改定案で、現行の1945字のうち5字を削り、196字を追加することが決まり、挨も拶もその新常用漢字に入った*2のである。
 追加される196字の表を見ると、隣国の国名である「韓」、都道府県名の「岡、茨、媛、埼、栃、奈、阪、阜、梨、熊、鹿」や「狙、誰、謎」など新聞がすでに使っている字、よく使う動物名「亀、鶴、虎、蜂」、姓名や地名で一般的な「葛、鎌、臼、駒、須、曽、藤、那、弥」、体の部位を現す「爪、瞳、眉、尻、脇」*3、衣食住関連の「錦、藍、釜、丼、麺、餅、箸、膳、鍋、串、鍵、瓦、枕」、日常生活と関係深い「虹、嵐、闇、叱、溺」などが並んでおり、多くは今まで表外字だったのが不思議な字だ。それらの追加は当然だと思う。
 また、よく使う二字熟語で、うち1字が表外字だったため、熟語全部または1字を仮名書きにしなければいけなかった「危」「折」「文」「破」「報」「完」「軽」「乳」「親」「土」「怪」「致」「賄」など*4が下線文字の追加で、漢字で書けるようになるのもありがたい。しかし、その他の用例がないのに「語彙」の「彙」が追加されたり、29画もある*5「鬱」が「憂鬱」など頻度が高いとして常用入りするのは、一方で障害者団体などの要望が強かった「碍」が見送りとなっている*6だけに、やや疑問である。
 「碍」は、碍子という熟語があるように、「妨げる」「差しつかえる」という意味で、かつては「障碍者」とか「障碍物(競争)」などと使っていた。ところが戦後、「碍」は表外字となり、「妨げ」という意味で、音も同じ「害」への言い換え*7が一般化した事情がある。だが「害」は「殺害」「傷害」など人を傷つける行為に使われ、「邪魔」「わざわい」「損なう」など悪いイメージが強い。体や知能、精神にハンディキャップを持つ者を「害」で表現するのは差別につながるという関係団体の訴えには説得力があると思うが、小委員会の考えは、「碍」も悪い意味で使われた例があり、「害」と大差ないというものらしい。では「碍子」はなぜ「害子」とされなかったのか。「害」のイメージが悪いからではないのか。
 それはそれとして、「挨拶」と漢字で書いた文章がこれまで以上に増えるのは憂鬱だ。


*1 このホームページの活動日誌などはすべて「あいさつ」と平仮名で書いているはずだ。実は今回の改訂で、「すべて」を「全て」と書くことも許されるようになったが、元々「すべて」は「総べる、統べる」(別々のものを一つにまとめる、統治する)の連用形に助詞「て」が付いたもの(広辞苑)で、「総て」「統べて」と書くなら分かるが、「全て」は誤用の当て字であり、一般に通用しているからといって、なぜこんな読みを認めたのか不可解だ。
*2 これまで2字とも表外字だった熟語が、「使われる熟語が少ない」にもかかわらず、まとめて常用漢字入りした例は「挨拶」のほか「曖昧」「憧憬」「腫瘍」「沙汰」「嫉妬」「瑠璃」「咽喉」などがある。多くは使いたい人が使えば良い程度の字で、常用漢字に追加する必要はないのではないかと思う。
*3 内臓も含む体の部位を示す字で今回追加が決まったのは他に、「股」「膝」「肘」「頬」「腎」「脊」「腺」「咽」「喉」があるが、専門用語にしか使わない字もあり、「股」以外は追加が妥当かどうか疑問である。
*4 ほかに「念」「断」「銃」「跡」「払」「所」「捕」「頂」「焼」「出」「濫」「山」「頭」「骨」「具」「古」「間」「概」「慢」「要」「恥」「意」「真」「覚」「惨」「那」「茶」「便」「及」「色」「積」「笑」「進」「補」「博」「着」「倒」「離」「点」「隠」「発」「金」「比」「辛」「然」「僧」「明」「風」「翻」なども追加されるが、字の難しさや、使用頻度を考えると、そこまで追加すべきかと思う字も多い。
*5 中字典クラスの漢和辞典では「鬱」より画数の多い漢字は7〜8字しか載っていない。もちろんすべて常用漢字ではない。
*6 碍子は「電線を電信柱などに取り付ける時、絶縁のために使う磁器や合成樹脂製の器具」で、「日本碍子」という会社もある。同社は、やむなく社名を「日本ガイシ」としている。「碍」を不採用とした理由に「使用頻度が低い」「使われる熟語が少ない」というのがあるようだが、「語彙」などと比較しても選別の基準があいまいで、文化審議会漢字小委員会メンバーの好みに左右されている感じがある。
*7 実は、今回常用漢字に追加される字には、言い換えが定着しているのになぜ?という例がいくつもある。法律用語の「留」を新聞は「拘置」と書き、「」は「幅」、「貼る」は「張る」、「全」は「全容」、「滅」は「壊滅」、「元」は「元日」、「失」は「失跡」、「親」は「親類」、「差」は「小差」で済ませてきた(「戚」は「縁戚」の場合言い換えが難しいし、「僅」も「被害僅少」というような場合は言い換えが困難であり、追加が妥当か判断に迷う)。にもかかわらず、下線の字は追加され、「碍」は見送られたのである。小委員会の言い分は、障害者自立支援法廃止とそれに変わる新法制定を明言している政府が「障がい者制度改革推進本部」を設置、制度改革のほか、「法令等における『傷害』表記の在り方に関する検討等を行う」としているので、その結果によって「碍」を常用漢字に追加するかどうか決めるということのようだが、政治任せで主体性が感じられない。




<back>
 HOME / ごあいさつ / 自分史(1946〜2002) / 父との別れ / 憂楽帳 / 惰学記 / 父の思い出 / 後援会 / 大きなうた / 余談独談

 大橋建一へのご意見等は、こちらから。  E-Mail : info@ken-ohashi.jp