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だから言ったじゃないの
 古い歌謡曲の題名*1を借りるが、惰学記いろは歌シリーズではない。2007年7月16日、新潟県中越沖地震によって東京電力柏崎刈羽原発が大きなダメージを受けた時の話を「理系思考」(元村有希子・毎日新聞科学環境部デスク著*2)で読んで、この教訓が生かされず、東日本大震災での福島第一原発事故を招いたことに愕然とした。少し引用させてもらう。
 「柏崎震度6。画面の字幕を見て反射的に『あ、原発』と思った。まもなく画面は黒煙を上げて燃えるプラントを映し出した。周囲には人っ子ひとりいない。消防車が来る気配もない。肝が冷えた」。「この地震で原発内はかなりのダメージを受けた。トラブルは1200件を超えた。幸い稼働中の原子炉は自動停止し、核燃料の暴走は起きず、放射能漏れもごくわずかだった*3」。「いわゆる原子力の専門家はこれを『閉じ込めに成功した』と評価する。しかし」「原子炉以外の耐震基準が甘かったため、変電設備がショートして出火したこと、水道管も断裂し、消火のための水が使えなかったこと、祝日で自家消防隊の招集は遅れ、消防署につながった時は消防車消防車が出払っていたこと。これだけお粗末な対応で『よくやった』とほめる人はまずいないだろう」「東電は『想定外の揺れだった』というけれど、建設する際、海底の活断層を認識していながら、甘く見積もった可能性がある」*4
 規模は違うが、福島原発の事故を想定しうる警鐘的な事件が4年前にあったのである。
 元村記者は西部本社から東京編集制作総センター*5を経て科学環境部に異動、取材を通じて「理系人間」の重要さを認識、連載企画「理系白書」を担当し、06年に「第1回科学ジャーナリスト大賞」を受賞した。「理系思考」は、彼女が毎日新聞のコラム「発信箱」に04年から約3年間毎週書き続けた記事をもとにまとめたものだが、科学に関する難しい話を分かりやすく書く筆力に感心させられる。文明批評しても鋭いが、記者にありがちな「上から目線」を感じさせるものが少なく、総じて読後感が良かった。中で何度も自然災害の恐ろしさと、それを知りながら自分は大丈夫と思ってしまう人間の楽観主義を戒めている。
 彼女は中越沖地震直後に「電力会社が強調する『原発は発電コストが安い』という宣伝文句も、地震対策や核燃料サイクルの不透明を考えると説得力が弱い」「度重なる不祥事で『想定外』は言い訳にならなくなっている」と書き*6、07年9月「理系白書」出版前に書き足した*7際に、「せめて肝を冷やしたこの経験を、他の原発の耐震基準見直しに生かすことだ。一番やってはいけないことは、『のど元過ぎれば……』で何となく忘れてしまうことだ。次の『想定外』が致命傷にならないという保証は誰もできない」と記していた。
 元村記者が4年前から危惧し続けていた事態が東日本大震災で起き、福島第一原発は取り返しのつかない事態に至った。だが政府も原子力安全委員会も東電も「想定外」を繰り返すばかりだった。彼女は「だから言ったじゃないの」と叫びたい気持だっただろう。



*1 「だから言ったじゃないの」は、「あんた 泣いてんのネ」というセリフから始まる1958年ごろのヒット曲のタイトル。松山恵子が同年の紅白歌合戦で歌ったのを覚えている。
*2 毎日新聞和歌山支局が毎年開催している「毎日ウィーク・イン」という催しに、今年8月、元村記者がゲストで招かれ、ノーベル賞取材や日本の科学政策などについて講演した後、苦学しながら様々な発明を続け、現在の鞄精機製作所を一代で築いた島正博社長と対談した。その時の話や島社長の思いを引き出すインタビューぶりが見事だったので、改めて惚れ直し?! 終了後、会場で販売された彼女のサイン本を購入した。
*3 使用済みの核燃料プールの水があふれて海中に流出した。(これと同じことが今回も起きている)
*4 引用は句読点も含め、一部省略したが、基本的には原文のままである。
*5 私が東京本社で通算10年いた職場である。従って元村記者は後輩だが、彼女が編集制作総センターに配属されたころは私は他の部署に異動しており、一緒に仕事をしたことはない。
*6 「理系思考」P114〜115。「原子力ルネサンス」(07.7.25)より。
*7 「理系思考」P134〜137。06年4月に掲載された発信箱『楽観主義を戒める』に、中越沖地震発生後、柏崎刈羽原発の話を書き加えて同書に掲載した。本文第2段落の引用文の続きが「せめて肝を冷やしたこの経験を」から「保証は誰もできない」までのくだりである。



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