明日  I will support Ohashi For tomorrow. 大橋健一
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市民が主役



余談独談




七五調*1

 「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり」。日本の近代詩の代表的作品である島崎藤村の「初恋」は典型的な七五調である。実は近代詩の主流だった定型詩は、ほとんどが七五調かその反対の五七調になっている。
 詩や歌には、日本では万葉の昔から5音と7音の組み合わせが重んじられてきた。日本語の構造とマッチしているためか、「5-7」、あるいは「7-5」の繰り返しが耳に心地よく響くようで、万葉集に出てくる長歌は「5-7-5-7……5-7-7」と、「5-7」が何度も繰り返されて最後に「-7」が付く形式で、これの最も短い形が「5-7-5-7-7」の短歌形式となった。
 従って、まず生まれたのは五七調で、古今和歌集の時代に入って最初の5字が枕詞や単なる形容詞となる歌が増え、七五調が派生したと言える。五七調のやや重い感じ――例えば夏の高校野球のテーマ「栄冠は君に輝く」の<雲はわき 光あふれて 天高く 純白の球 きょうぞ飛ぶ…*2>や島崎藤村の「千曲川旅情の歌」<小諸なる 古城のほとり 雲白く 遊子悲しむ 緑なす 繁縷は萌えず…>などに比べ、<汽笛一声新橋を はや我が汽車は離れたり 愛宕の山に入りのこる 月を旅路の友として>と始まる鉄道唱歌のように軽快で明るい感じがあり、童謡・唱歌はじめ多くの歌詞に好んで使われる*3ようになったようだ。
 そもそも<いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやまけふこえて あさきゆめみし ゑひもせす>のいろは歌*4が七五調だし、土井晩翠の「荒城の月」、与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」、文部省唱歌「われは海の子」、「惰学記」の数シリーズで取り上げた柳亭痴楽の落語の枕「恋の山手線*5」、「水戸黄門」の主題歌「ああ人生に涙あり」、チェッカーズの「ギザギザハートの子守唄」もすべて七五調だ。
 作詞したシングル曲の総売上枚数が6,828万枚で、今も作詞家歴代1位である阿久悠(1937〜2007)の作品にも、都はるみの「北の宿から」、森田公一とトップギャランの「青春時代」、八代亜紀の「舟唄」、岩崎宏美「思秋期」など七五調のものがいっぱいある。
 さて、話は島崎藤村の「初恋」に戻る。オールド歌謡曲ファンなら、「初恋」を舟木一夫が抒情歌謡として歌っていたのを覚えている方も多いと思う。「初恋」は1971年9月に発売され、同年の紅白歌合戦でも歌われた。舟木一夫といえば学園もの*5というイメージが強いが、デビュー4年目の「絶唱*6」(66年8月)あたりから文学をモチーフにした抒情歌謡を得意ジャンルとするようになり、67年には「夕笛」「残雪」などがヒットしている。
 しかし、70年代に入ると、学園ものも抒情歌謡も時代の流れに取り残され、ヒット曲が出なくなる。若松甲作曲の「初恋」は抒情歌謡としてはなかなか趣があったが、さほどヒットせず、デビュー年以来続いていた舟木の紅白出場は71年の「初恋」までで途切れた*7。
 
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*1 今回の「七五調」は、昨年12月に出版した「百歌自典」に「初恋」という題で掲載した文章を、HP用に書き直したものであることをおことわりしておきたい。
*2 加賀大介作詞のこの曲は、学制改革で高校野球選手権大会となった1948年の第30回大会を前に、朝日新聞社が歌詞を募集した時に、5252編から最優秀作品に選ばれた。
*3 もちろん、同じ島崎藤村の「椰子の実」<名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る 椰子の実ひとつ…>のように、五七調の歌もあるが、数は少ない。
*4 漢字仮名交じり文にすると<色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならん 有為の奥山 けふ越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず>となる。
*5 「恋の山手線」については惰学記数シリーズ「29駅」に詳しく記している。
*6 惰学記いろは歌シリーズ「高校三年生」で書いている。
*7 ヒット曲が出ないことから舟木は心身不調となり、自殺未遂から長期静養を余儀なくされたことも紅白落選の大きな理由だった。なお、舟木一夫は1992年の第43回紅白歌合戦に出場し、「高校三年生」を歌っている。


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